「相続税と贈与税の一体課税」の背景についてざっくり解説してみた。

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相続税と贈与税の一体課税というはなしがあります。

一体課税とはどういうこと?について、現状分かる範囲で解説します。

目次

「相続税と贈与税の一体課税」ってなに?

最近、メディアでも取り上げられることが多くなった「相続税と贈与税の一体課税」というはなし。

いったい、どんなはなしなのか。ざっくり解説してみたいと思います。

そもそもは、税制改正大綱でこんな一文が載ったのがはじまりでした。

税制改正大綱の内容
「外国の例を参考にしつつ、相続税と贈与税課税の一体化、相続時精算課税贈与と暦年課税贈与の見直しを検討していく」

わかりやすくするために、ざっくりな説明にとどめています。だいたいこんな感じです。

「検討していく」なので、まだ決まった話ではありません。ただ、近いうちに現状のルールが見直される可能性があります。

そもそも、なぜ、そんな話になったか?

こんな話が出てきたのには、理由があります。

当初の想定ほど若い世代にお金を流せていない

見直しの理由の1つに、当初の想定とあっていないというのがあります。

国は若い世代に財産を移転して、お金を使ってもらいたいという考えがあったわけですが、じっさいは相続する子どもがすでに高齢であるというケースも多く、その下の若い世代まで届かないというのがあります。

93歳でなくなった方の相続人が70歳というように。

そもそも、贈与税は高いというイメージもありますし、高齢の方が贈与で財産をもらったとしても、これから長生きするのに必要になるお金もあります。

そんなことを背景に、その後、若い世代向けに「住宅資金」「教育資金」「結婚・子育て資金」の3つについて、贈与税の特例ルールをつくっています。

下の世代にお金が流れるようなしくみをつくってみたという話です。

ところが、そのうちの「教育資金」「結婚・子育て資金」については,当初こそ利用が進みましたが、その後は新規利用も激減しているというのが現状です。

「住宅資金」に比べると「教育資金」「結婚資金」は手続き、ルールがめんどうですし。

若い世代にお金を動かしてほしいと、そのあとにできたのが、贈与税率の2段階構造でした。

現在の贈与税率は、特例税率(直系の祖父母や父母から20歳以上の子、孫への贈与)と一般税率の2段階構造となっています。直系のほうが、贈与額が増えるにつれて贈与税の負担が少なくなるしくみです。

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現状のルールでは資産家は、より資産家になる

この話をする前に、相続税と贈与税のしくみについてお話しておきます。

相続税というのは、相続時点で亡くなった人がもっている財産の移転に対してかかる税金です。この税率表を見ると、もらう財産が多いほど税負担が上がっているのがわかります。

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「じゃあ、相続税を減らしたいからと、生きているうちに財産をわたそう」そう考えるわけです。

確かに。生前の財産の移転には、相続税がかかりません。そこには相続税ではなく、贈与税がかかります。

相続税と贈与税のちがい
  • 相続税→相続後の財産移転にかかる税金
  • 贈与税→生前の財産移転にかかる税金

ここで、さきほどの贈与税率の2段階構造のはなしです。国は若い世代にお金を移してもらって、お金を使ってもらおうとしたわけです。

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特に直系(20歳以上への贈与)のほうが税負担は低い、というのでその意図がでています。

贈与で財産をもらうと、贈与税がかかるわけですが、暦年課税の贈与には、生前贈与加算というルールがあります。

具体的には、相続開始前3年以内の贈与財産を相続税の計算に含めるというもの。

贈与をするならできるだけ年の早いうちがいい 生前贈与加算というブーメラン | GO for IT 〜 税理士 植村 豪 Official Blog

ということは。3年を超えた贈与については、相続税の計算に含まれることなく、贈与税を払っておしまいです。

相続開始前3年を超えるところで、相続税>贈与税になるような贈与をすることができれば、かりに贈与税を払ったとしても、相続と贈与を含めたトータルの税負担は少なくなるということになります。

じゃあ、贈与したときの実質的な贈与税率はいくらなのかといえば、贈与額ごとにこんな感じです。500万円の贈与があって、税負担は10%です。

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日本の相続税と贈与税にはこんなルールがあります。

税理士のアドバイスを受けてなのか、このしくみを知っている資産家の方が、相続対策で積極的に贈与を利用するわけです。

確かに若い世代に財産を移転させたいというのは、国の想定にはあって、それはいいのですが、それと同時に相続税を節税した結果、格差がつき、税金の公平な分配につながりにくい…ということにもなっています。

より格差がつく。それが資産家が、より資産家になるという理由です。

補足
相続時精算課税は、30年前だろうともらった財産はすべて相続税の計算の対象になります。さらに一度、相続時精算課税を選ぶと取り消しもできない一方通行。それゆえに利用も少ないし、わたしもよほどでなければおすすめしていません。

そんな背景があって、税制改正で「相続税と贈与税の一体課税」という話が出たわけです。

外国のルールを参考にするとは?

さきほどの税制改正の一文の話に戻ると、「外国の例を参考にしつつ…」というのがありました。

一体課税を検討するのに、外国の相続税のルールを参考にするという方向性のようです。

じゃあ、どんな特徴があるのか。2つのパターンにわけて考えてみます。

<パターン1>アメリカは贈与財産をすべて相続時に精算する

アメリカは、相続までの累積の贈与額と相続財産の合計に税金(遺産税)がかかるしくみ。

何年前の贈与でも相続税の計算対象になるという点で、日本の相続時精算課税に近いイメージです。

ただし、基礎控除額は日本とアメリカではぜんぜん違います。

日本の基礎控除額は3,000万円+600万円×法定相続人の数

アメリカの基礎控除額は1,000万ドル(10億円)。計算のしくみの違いはあるにせよ、よほどの富裕層でないと遺産税はかかりません。

ただ、累積の贈与金額の合計を相続財産に上乗せして、税金を計算するので、日本のように相続財産を贈与で生前贈与で減らすという節税効果はなく、資産家には確実に税金がかかるというしくみです。

まさに相続税と贈与税が一体化されているというイメージ。

結果として、その税金をアメリカ国民に分配することができます。

<パターン2>ドイツ・フランスは生前贈与加算タイプ

これに対してドイツやフランスは、一定期間に贈与した財産のみを相続税の計算に含めるという、日本の生前贈与加算に似たタイプです。

贈与をするならできるだけ年の早いうちがいい 生前贈与加算というブーメラン | GO for IT 〜 税理士 植村 豪 Official Blog

ただ、対象になる贈与の期間は、日本よりもかなり長いです。ドイツは、相続開始前10年以内の贈与財産を相続税の計算に含めるというルールです。フランスはこれよりさらに長い15年です。

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つまり、10年とか15年という期間の中では、移転時期によらず税負担は同じ。期間限定で相続税と贈与税が一体化されているといえます。

どこにいくのか?相続税と贈与税の一体課税。

ということで。相続税と贈与税の一体化について、

  • 相続税と贈与税の一体課税が税制改正大綱でつぶやかれた背景
  • 外国の相続税のルールと生前贈与

について、見てきたわけですが、日本に比べると外国のほうが相続税と贈与税の一体化ができているイメージです。

日本版の相続税と贈与税の一体課税、どこに辿り着くかはなんともいえませんが、外国のルールにある程度合わせに行くでしょうね。

暦年課税贈与がなくなると言っているメディアもあるわけですが、本当にそうなるかは、現状はなんとも。

ただ、個人的には、いきなりアメリカのような完全一体化というのは、むずかしいのでは?と感じています。

ルールを変えるとしても、ドイツやフランスのような生前贈与加算の対象になる期間、3年をもう少し増やすというのが現実的かなとは考えています。

今後、贈与を検討している方は、注目しておきたいところです。


【編集後記】
昨日は法人の決算を中心に。そのあとは、読書やExcelのカスタマイズを。

【昨日の1日1新】
※「1日1新」→詳細はコチラ
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