社長に相続があった場合、退職金を支給することがあります。そのときにどんな手続が必要になるのでしょう。
会社と相続人、それぞれで考えておきたいポイントをざっくりまとめてみました。
退職金という名目は一緒 でもいろいろ「違う」
通常、社長が退任すると、退職金が支給されます。
その場合、会社は退職金を払うための手続きをする必要があります。
こういったものです。
- 退職金をいくら払うか決める(株主総会決議で。多すぎると過大分は経費にならない。税務調査で問題になることも。)
- 退職金の計算(所得税・住民税を源泉徴収する)
- 税引き後の退職金を振り込む
- 所得税と住民税を納付
- 源泉徴収票を発行
- 法定調書を提出
などなど。これほどやることあるんかいな、と思われるかもしれません。
退職金の税金を計算するにあたっては、「退職所得の受給に関する申告書」という書類を作成しておく必要があります。もし、作成がないと退職金の額面×20%と多めの所得税を源泉徴収しないといけなくなります。
その一方で。社長が退職する前に亡くなるということはありえます。
名目は同じ退職金。亡くなる前か後かという点が違います。ところがいろいろと違ってくることもあるのです。
その1つは税金。
通常、支給される退職金には、所得税や住民税がかかるのですが、亡くなってから支給される退職金は、所得税や住民税ではなく、相続税がかかるのです。
となれば、やることもいろいろ変わってくるわけです。
死亡退職金を支給した場合、会社がやるべきこと
社長がなくなってから支給される、いわゆる死亡退職金。
会社側の手続きとしては、代表取締役の変更登記などあるわけですが、そういったことはネットで検索していただくとして、それ以外にどんなことがあるかを確認してみましょう。
税務署に出す書類は?
通常、退職金を支給する場合、
- 退職所得の受給に関する申告書(提出しないで会社で保管)
- 退職所得の源泉徴収票(税務署・市町村に提出)
といった書類を作成する必要があるというのは、さきほど触れたところです。
ただ、死亡退職金を払う場合には、ちょっと話が違います。
これらの書類をつくる必要もないですし、源泉徴収票を税務署に提出する必要もありません。
所得税や住民税がかからないというのが理由です。死亡退職金には相続税の対象になるので。
となれば、受取人の口座に退職金を振り込むときにも、税金が天引き(源泉徴収)する必要もないのです。
その代わりに「退職手当等受給者別支払調書」という書類を、退職金を支給した月の翌月15日までに税務署に提出しないといけません。
こういった書類です。受給者というのはもらう人、退職者は今回の話では社長です。
提出は相続人等ごとの退職金をもらう金額が100万円超の場合に限ります。
この書類を見て、税務署では「死亡退職金払っているんだねー。」と相続人に死亡退職金があるのをチェックするわけです。
あとは決算書などからも。
これ以外だと、代表取締役が交代したという登記事項の変更で異動届の提出が必要になります。
未支給給与
死亡退職金とはまた違った扱いになる未支給給与。
ここで、未支給給与についてざっくり触れておきます。
社長が亡くなったとき、支給日が未到来で支払われていない役員報酬があるとします。
その場合、この支給されるはずだった最後の役員報酬は「未支給給与(未収入金)」として相続財産になるのです。
相続があってから支払われる給料は相続財産になる? | GO for IT 〜 税理士 植村 豪 Official Blog
ということは、やっぱり所得税や住民税がかからないので、源泉徴収票には載らない金額。確定申告や年末調整でも考慮されないということになります。
この点、実務上のはなしになるのですが、給与ソフトで役員報酬を計算している場合、最後の役員報酬も源泉徴収票に反映されてしまうことが多いです。
ただ、これだと準確定申告をする給与収入が増えてしまいますから、これはまちがいです。
多くの給与ソフトは死亡退職を前提としていないので、その点は注意が必要になります。
自社株
今回は退職金がメインなので、あまり詳細に触れませんが、社長が亡くなったときにもっている会社の株式は、相続にあたって時価を計算する必要がでてきます。
見えない、売れないという自社株。相続にあたって会社としても株価を計算するなどの対応が必要です。
場合によっては会社が買い取るという選択肢もありえます。
そして、死亡退職金を支給している場合は、株価を計算するにあたって未払退職金を考慮する必要があります。
こちらもあまり深堀りするとややこしくなるので、この辺りでやめておきましょう。
とにかく、税理士に株価計算してもらった場合には、ちゃんと株価に退職金がされているかどうか確認しておきたいところです。
遺族はなにをすればいい?
死亡退職金を受け取る遺族側のポイントについても触れておきます。
受け取った死亡退職金
死亡退職金、会社で受取人の順位が規定などで決められていれば、その人が受取人になります。
この受け取った退職金は、相続財産ではないものの、相続税では財産扱いです。
また、非課税枠があるためそれを超える金額だけが課税対象になります。
この非課税枠というのは「500万円×法定相続人の数」。
たとえば、法定相続人が4人なら2,000万円まで、3人なら1,500万円までが非課税ということです。
もし、相続税がかかるなら生命保険と並んで納税資金にもなりるものです。
弔慰金をもらったら?
退職金とは別に弔慰金をもらうことがあります。
文字どおり亡くなった社長を弔う目的で遺族に支給されるものです。
この弔慰金というのは、亡くなった方の相続財産ではありませんが、退職金と同じように相続税がかかるものです。
ただ、非課税枠があり、前述の退職金とは別枠のものです。
- 業務外の理由で死亡で支給→給与月額の半年分
- 業務上の理由による死亡で支給→給与月額の3年分
この範囲内の支給なら相続税はかかりませんので、たいていはこの非課税枠の範囲で支給されることが多いと思われます。(もちろん所得税や住民税もかかりません。)
ただ、これを超えて受け取った場合には、超えた金額については死亡退職金の扱いになります。
未支給給与
亡くなったあとに、支給された役員報酬は、相続財産になります。
会社側でもかいたので、詳しくはそちらを見ていただくか、こちらの記事をご覧いただければ。
相続があってから支払われる給料は相続財産になる? | GO for IT 〜 税理士 植村 豪 Official Blog
小規模企業共済
小規模企業共済をかけたまま社長が亡くなった場合に受け取る共済金も死亡退職金となります。
もらえる人が忘れずに請求しましょう。
受取人順位は小規模企業共済側で決まっていますので。参考までに。
中小機構HPより
会社株式の異動
今回は退職金がメインなので、あまり詳細を書きませんが、亡くなったときにもっている会社の株式は、相続財産になりますし、だれが相続するかも決めないといけません。
これは後継者に相続してもらうべきですし、生前に遺言を書いておくべきでしょうね。
もっとも、売れない、見えない株式。でも財産価値があるという取り扱い注意な財産。
生前に事業承継として少しずつでも後継者に贈与していくことがおすすめではあります。
以上、触れていないものもありますが、ざっくりまとめてみましたので、参考にしていただければ。
【編集後記】
昨日の22時にAppleの新商品が発表される?という情報がありましたが、結局発表は15日にされるとのこと。もっとも発表されるかどうかを待つことなく寝ていましたが、どんな感じになるのかは楽しみではあります。
【昨日の1日1新】
※「1日1新」→詳細はコチラ
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